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福井家庭裁判所武生支部 昭和59年(家)330号 審判

主文

本件申立を却下する。

理由

第1申立の趣旨及び実情

申立人は、相手方を申立人の推定相続人から廃除するとの審判を求め、その理由として、相手方は申立人の長男であるが、申立外豊子(以下「豊子」という)と婚姻以後性格が粗暴になり、豊子は申立人の亡妻(昭和58年4月15日死亡)の看護を拒否した外、相手方夫婦は申立人の言うことを聞かないばかりか、申立人に対してもしばしば暴力を振るうなど虐待を続ける状態で、申立人としては生きた心地さえしない状況であるので、推定相続人から廃除することを求めると述べた。

第2当裁判所の判断

1  家庭裁判所調査官の調査報告書(2通)その他本件記録によれば、申立人と相手方との対立は、申立人にとって「嫁」に該る相手方の妻豊子が全面的に申立人に服従しないことから生じた不和が拡大したものと認められ、相手方もしくは豊子が申立人を虐待した事実は(付け加えれば、豊子が申立人の妻の看護を理由なく拒否したとの事実も)、これを認めることができず、申立人が誤解しているか、申立人自身のやや行き過ぎた行為に対する相手方らの制止を虐待というのに過ぎないと解される。

2  結局、申立人の申立の趣旨は、家庭裁判所に仲介に入って貰って、相手方の妻を説得して、申立人に謝罪させ、申立人に服従するようにして貰いたいということであって、当初の申立から5年も経過し、相手方や豊子らは申立人と別居し、当初の申立書に記載してある申立の動機は一応目的を果たした筈であるにも拘らず、本件申立を維持しているのは、相手方や相手方の妻への圧迫の材料として残しておきたいというものと解されるが、戦前の家父長制度のもとであれば格別、戦後の家族制度は親であるからといって、子の夫婦関係のあり方に介入することは許されず、また嫁に全面的服従を要求することも無理と言わざるを得ないし、従前の経過から判断して、一方的に相手方もしくは豊子に非があるとは到底認め難い本件では、裁判所が仲介して相手方に謝罪させ、申立人に服従させることは不可能である。

3  推定相続人廃除の制度は、もともと法は、直系卑属や配偶者などは、被相続人との関係上、当然に一定限度の財産を相続できるもの(遺留分である)としているのであるが、離婚原因や離縁原因となるような重大な事由がある場合に限って、例外的に、この遺留分を奪うことができるとしている制度であるところ、先に述べた通り、相手方が申立人を虐待した事実は認め難いし、その他にも右離婚原因や離縁原因に匹敵するような虐待、侮辱、重大な非行があったとは認められないから、本件申立は理由がない。

よって、本件申立を却下することとし、主文の通り審判する。

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